「どんなチェストにしようかなあ」ぼそりと呟く夫。キタキタ待ってたその一言。こういうふうに夫が呟く時は、私のアイデアを提案できるチャンスだ。
「文房具や紙類がクールにしまえるチェストはどう?」とヨーロッパのアンティークチェストの写真を引き合いに出して、私の希望を事細かに述べた。夫は「いいね」とも「いやだ」とも言わず、私のリクエストを書き留めたメモ紙を持って自分の工房に戻っていった。
さてその翌日、チェストの最も重要な部分の、板を引き出すと前蓋が上に持ち上がる、という仕組みのサンプルを見せてくれた。
作る気になったんだ。と私は嬉しかった。相当嬉しかった。
構造や仕組みを工夫したり、作り方を考えることが大好きな夫。私の提案に、すっかりハマってしまったようだ。
やがて作業は開始され、制作は順調に進んだ。そして、私が待ち望んだ新作チェストは完成した。
ではでは、完成したチェストの検品をさせていただこう。
と、抽出しのつまみを持って引っ張ると、前蓋は持ち上げられて側板がついたボードが出てきた。前蓋の上がり具合もスムーズだ。
最下段は普通の抽出しになっている。
日頃使っている事務用品をきっちり収めて、抽出しの動き具合をみたところ、物が入っても抽出しは滑らかに動く。中に入れているものが一目でわかり、目当てものものが取り出しやすい。
極めてクールな出来上がりだ。
「これですこれです。私が欲しかったチェストそのものです。ありがとう。」
とそのまま使えたならば、お誕生日とクリスマスとお正月とその他のお祝い事が一度にやってきたみたいに、私の人生はその場で薔薇色になっただろうに。
だが、ホワイトオークとチークで作った新作2点は、予定通り展覧会に出品された。そしてその2つともが嫁入りした。
その後、同じデザインのチェストが新たに制作された。しかし、以前として、私はプラスティックとスチールの抽き出しを使っている。。。