「あらまあ、なんて可愛い!」そう声に出すと、最近影を潜めていた乙女心に灯がともり、胸のあたりがキュンとした。
夫が差し出したのは、新作の木製バターケース。
「モニター大歓迎でございます。うふふん」と小躍りしながら、バターケースを受け取った。
そのバターケースは引き出し式になっていて、100gのバターが収まる。長さは約15cm くらい。ホワイトオークの樽材で作られている。
冷蔵庫の中に入れていても、引き出しのスムーズな動きに変化がないか?使い心地はどうか?などを検証したいそうだ。
手のひらに木箱を乗せ、両手で挟んで撫でると、木肌と手の肌がぴったりとなじむ。安心して扱えるなあ。優しいなあと思う。
引き出す部分に削られた、わずかなくぼみに指をかけて、バターケースの引き出しを引っ張りだすと、バターを載せる台が滑らかに出てきた。その箱の中を覗いてみると、引き出しが収まる空間は、厚さ8ミリくらいの板で囲われていた。まるでバターを守る要塞みたい。これならば、きっとバターも安心して暮らせるだろう。
ではでは、このしっかり者のおチビちゃんにバターを収めてみましょう。と、包装銀紙をベリベリっと剥がしてバターを引き出しの台に置き、箱の中に仕舞った。引き出しを仕舞うと、また引き出してバターの顔を見たくなる。
小さな美しい木の箱に収まった黄金色に輝くバターは、貴重な贈り物のようだ。これは、ひとかけらずつ、じっくりと堪能しなくては。という心持ちになる。
味の違いがわかるほど口が肥えてはいないけれど、「さあ、いただきましょう」と姿勢を正して神妙に食べるのも、なかなか幸せな食事のひとときになりそうだ。まずはバターの塊を味わってみましょうと選んだのは『バター醤油ご飯』。
炊きたての熱々のご飯の上に、ひとかけらのバターを載せて醤油をたらり。
一膳のご飯とひとかけらのバターとちょっぴりのお醤油を、ゆっくりと味わい、全てが胃の中に収まった。
空になったお茶碗を眺めて、「もう1杯おかわり」と思った気持ちに無理やりピリオドを打った。ひとかけらの贅沢は味わい深く、そして後を引いた。
それ以来、パンケーキに、味噌ラーメンにと、私はひとかけらのバターを楽しみ、可愛いチビバターケースは、つつがなく冷蔵庫ライフを送った。その間夫は、いろんなメーカーのチビバターに対応するために、バターケース の寸法の検討を重ねていた。そしてちょうど100gのバターを食べ終わった頃、本番の制作が始まった。
バターケース が完成したそうなので、夫の作業台を覗きに行くと、木製のバターナイフが並んでいた。
5cm幅のバターをカットするのにちょうど良い刃渡りになっている。チビちゃん専用ということだな。このバターナイフに再び胸キュン。