工房裏の荒れた庭の片隅にひっそりと水引きの花が咲いていた。いつもなら、もうとっくに朽ちていてもいい頃なのに、そこだけ一筋の紅い光が射しているみたいだった。色が綺麗なうちに。と、ひと枝を折って額仕立ての一輪挿しに挿してみた。この一輪で、部屋にも心にも温かい灯が灯ったようだ。
さて、清水久勝作のこの額花入れ。ホワイトオークの木目が美しいフレームは斜めにカットされ、シンプルなデザインながら一手間かけた味わいがある。漆喰を塗った背板には試験管を出し入れできるホルダーがついていて、夫の木工小作品の定番中の定番。結構な人気者だ。
花を挿さない夫が作ったものに、花を挿す妻としてはひとこと言いたいところだけれど、1本の試験管が花入れとしてとてもうまく活かされていて、文句のつけようがない。
中でもすごいなと思ったことが2つ。
1つ目は、額の中に試験管が立っているという発想。自分なりのフラワーアレンジを壁に飾って楽しめる。
2つ目は、背板に漆喰が塗ってあること。手塗りの味わいが残る漆喰のおうとつ感は、自然で優しい雰囲気を醸し出し、試験管に挿した草花を引き立たせてくれる。
傍にある草花で、四季の移ろいを自分好みに表現できるのはとても嬉しい。庭や道端に咲くどくだみや猫じゃらしを入れると楚々とした草花の美しさを楽しめるし、山野草もよく似合う。梅、紅葉、竹などの枝ものを挿しても佳し。
玄関に掛けたり、座敷に掛けたり、また洋間でも。と場所を変えて使える、お役立ちの逸品。
我が家では、お花を飾る余裕がない時にはアイビーやジャスミンの葉を挿しているんだけれど、これはこれでサマになるし、根っこが試験管の中で伸びていく様子もなかなか面白い。買ってきた洋花を本気で挿して飾ってみるのも楽しいチャレンジ。なんだけれど、これは年に数回のことで、私はもっぱら庭の野草専門。
ともあれ、水引草、好きだなあ。
『あるかなきか茂みのなかにかくれつつ水引草は紅の花もつ』 九条武子