木工家清水久勝と樽材との出会い

Q:作品で多く使われている樽材との出会いは?
>25年くらい前になりますが、某菓子メーカーに勤めていた方からシェリー酒を貯蔵していた樽を貰いました。貰った時は、自分の制作の素材として、使えるとも思わなくて、玄関先にほったらかしにしてました。貰ってから数年経った頃に、その樽を使って靴べらを作りました。
Q:靴べらをその樽材で作ってみようと思ったのはなぜですか?
>タガが緩んでぐらついてきたので、危ないなと思って樽を解体しました。ちょうどその頃、お客様から立ったまま使える靴べらのオーダーがあって、解体した樽のカーブした部分を使えると面白いなと思いました。
それで、樽材についているタガの鉄錆を落として、削りこんでみると中から美しい木が現れてきました。
『これは使える!』と。びっくりしたし、嬉しかったですね。錆はへばりついているし、小石が埋まりこんでいたりで、グラインダーで汚れを落とす作業は一苦労で、鼻の穴も真っ黒になります。でも、手をかけるだけのことはある素材だなと思いました。削っているとお酒の香りもするんですよ。いい香りだなあ〜と匂いを嗅ぎながら削るのは、これまた楽しい作業ですね〜。あ。お酒は強くないです。
Q:樽の再利用ですね。ところで、樽の木の樹種は何ですか?
>ホワイトオークという木です。硬くてしっかりしています。樹齢百年くらいのものを樽にするそうです。そして、樽として何年も仕事をする。
その役目を終えたものを使っています。退職しても、さらに働いてもらうわけです。もちろん中には使えないくらい弱っているものもありますが、しっかりしているものは新入社員同様に長く働けます。(笑)
Q:今お持ちの樽材はどうやって手に入れたんですか?
>使える素材だとわかって、随分と探しましたがなかなか手に入りませんでした。その後ようやく手に入れたのが、大分県日田市にあったニッカウヰスキー九州工場(1999年に操業停止)で使われていたウイスキーの樽でした。部材の幅も広くて、長さも長い、大きな樽でした。そのニッカの樽を使って、樽材だけでベンチを作りました。樽のカーブを活かしたベンチです。この大きな樽との出会いで制作の幅が一段と広がりました。その後もいろんなツテを頼って少しずつ樽材を集めました。
Q:樽材の魅力はどういうところにありますか?
>樽材はまだまだ働ける素材です。長いこと酒と一緒に寝かされてきた分、味わいがあります。新入社員は持ち合わせていない味みたいなものですね。退職した樽の第2の人生に貢献できるのは、嬉しいです。
作り手としては、カーブしている材をどのように活かせるか、どうすれば、無駄なく効果的に使っていくかを考えるのはとても面白いです。樽のカーブは、一本づつ曲がり具合が妙に違っているし、同じ状態のものが一つとしてありません。カーブしているので、直線や直角の基準もないんです。一本一本がとても個性的な素材です。デザインや使い方を考える。樽材を並べてどれを使うか選び出す。カンナで削りこむ。どれも楽しい作業ですし、苦労し甲斐がある素材です。

(妻のひとりごと)
そーいえば、あの樽も某菓子メーカーの営業車に積まれてやってきたなあ。物珍しさもあってしばらくは面白がって眺めていたけれど、玄関先に置かれたデカイ奴。『触れると汚れるし。邪魔にもなるし。なんとか片付けてほしいなあ。』と密かに思っていた。そしてようやく夫が解体をしてくれた時には、とても清々しい気持ちになった。だが、ストーブで燃やすとばかり思っていたその樽材が、資材置き場に整然と積み重ねられているのを見つけて、私は驚いてしまった。
メガテンというよりはアンビリーバボーな気持ちだったように思う。なかなかモノを処分できない夫。決して美しいとは言えない、いや、汚れーて
曲がった木。私は一瞥を投げるしかなかった。
だが、だがしかし。あの時、冷たい視線を浴びせたその樽が、今や木工家清水久勝にとってはなくてはならない相棒となっている。出会いやご縁というものは、どこで、どのように繋がっていくのかわからないものだ。
『早く薪にして燃やしてよ!』と声高に、夫を責めなくてよかった。本当によかった。と心から思う。

 

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